「市場平均でいい」は、かつて笑われた
インデックス革命から50年
2026年8月31日、個人向けインデックスファンドは誕生から50年を迎えました。
その原点は、1976年8月31日。米国の運用会社バンガードの創業者、ジョン・ボーグルが設定した「ファースト・インデックス・インベストメント・トラスト」です。現在の「バンガード500インデックス・ファンド」にあたり、米国を代表する約500社で構成されるS&P500という指数に連動する投資信託でした。
インデックスとは、市場全体の値動きを示す「物差し」のようなものです。インデックスファンドは、これから値上がりしそうな会社をプロが選ぶのではなく、指数に含まれる会社を幅広く保有し、市場全体とほぼ同じ値動きを目指します。
いまでは当たり前に見える仕組みですが、当初の評判は散々でした。
「市場に勝とうとせず、平均で満足するのか」
「そんな商品に投資する人がいるのか」
設定時に集まった資金は約1130万ドル。目標としていた最大1億5000万ドルには遠く及ばず、一部では「ボーグルの愚行」とまで呼ばれました。市場平均を目指すという発想は、成功者や勝者を重んじる当時の米国では、あまりにも消極的に見えたのです。
「平均を目指す」ことが、なぜ合理的なのか
ところが、インデックスファンドの考え方には、しっかりとした理論的な裏付けがありました。
1990年にノーベル経済学賞を受賞したウィリアム・シャープは、「資本資産価格モデル(CAPM)」などの研究を通じて、特定の会社だけに投資するリスクは、幅広く分散することで小さくできると示しました。
さらにシャープは、後に「アクティブ運用の算術」という論文で、極めて単純ですが重要なことを指摘しています。
市場平均を上回ろうとして銘柄を選ぶ運用を「アクティブ運用」といいます。しかし、アクティブ投資家全体を合計すれば、それは市場全体になります。したがって、費用を差し引く前の平均的な成績は市場平均と同じです。そこから運用報酬や売買費用を差し引けば、アクティブ運用全体の平均は市場平均を下回ることになります。
もちろん、すべてのアクティブファンドが市場平均に負けるわけではありません。市場平均を大きく上回るファンドもあります。問題は、それをあらかじめ見つけ、長く持ち続けることが簡単ではないということです。
それならば、特定の勝者を当てようとせず、市場全体を低いコストで保有する。これは、投資を仕事にしているわけではない個人にとって、きわめて合理的な選択です。
ただし、「合理的」であることと「損をしない」ことは同じではありません。市場全体が下落すれば、インデックスファンドの価格も下がります。インデックス投資の合理性とは、将来を正確に予測できると思い込まず、幅広く分散し、自分で管理できるコストをできるだけ抑えることにあります。
米国から日本へ広がった「インデックス革命」
インデックス運用は、まず年金基金などの機関投資家に広がり、その後、個人の資産形成にも浸透していきました。
2026年7月末の米国では、長期の投資信託とETFを合わせた残高の53.9%をインデックス型が占めています。米国株式に投資するファンドに限れば、その割合は64.1%です。かつてほとんど見向きもされなかった投資手法が、いまや市場の主流になりました。これが米国で「インデックス革命」と呼ばれる大きな変化です。
日本でも、まず年金基金をはじめとする機関投資家にインデックス運用が広がりました。
私たちの公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人、いわゆるGPIFでも、2024年度末時点で運用資産の約82%がパッシブ運用です。特に国内株式では約95%を占めています。
そして近年、個人投資家の世界でも、大きな変化が起きています。
ETFを除く日本の公募株式投資信託では、純資産総額に占めるインデックスファンドの割合が、2016年末の13.0%から、2026年7月末には42.5%まで上昇しました。特に2024年に始まった新NISAが、その流れを大きく加速させています。
オルカンは、日本のインデックス革命の象徴
私が2018年に世に送り出した「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」、通称「オルカン」も、この変化を象徴するファンドです。
オルカンは、日本を含む世界の株式市場に、1本で幅広く投資します。どの国や企業が次の勝者になるかを予想するのではなく、世界全体を持つという考え方です。
新NISAが始まる直前の2023年12月、オルカンの純資産総額は約1.8兆円でした。それが2026年9月には約13.9兆円にまで拡大しています。2018年の設定以来、安定した資金流入が続いていましたが、新NISAの開始後、その規模は一気に大きくなりました。
これは、単なる一商品の人気だけではありません。
多くの人が、「次に上がる国や会社を当てなくても、世界経済全体の成長に参加できる」という考え方を受け入れ始めた。その意味で、オルカンは日本における「インデックス革命」の象徴だと私は考えています。
投資を、人生の主役にしない
アクティブ運用にも重要な役割があります。
企業を調査し、将来性を評価し、株式を売買する投資家がいるからこそ、企業の価値を反映した株価が形成されます。インデックス運用も、そうして形づくられた市場を利用しています。
しかし、アクティブ運用が市場に必要であることと、すべての個人がアクティブ投資をしなければならないことは、まったく別の話です。
多くの人にとって、投資は人生の主役ではありません。仕事や家族、学び、健康、旅、趣味など、もっと時間と心を使いたいことがあるはずです。
市場全体に幅広く投資し、余計な売買をせず、長く持ち続ける。インデックス投資の本当の価値は、投資のために費やす時間や迷いを減らし、自分の人生に集中できることにあるのではないでしょうか。
お金は、増やすだけでは意味がありません。自分が大切にしたいことに使って初めて、人生の中で価値を持ちます。
このニュースレター「世界に投資し、人生を味わう」では、長期投資の考え方を出発点に、相場や情報に振り回されない投資との付き合い方、そして、その先にあるお金の使い方や人生の選択について、多様な分野のプロとの対話も交えながら考えていきます。
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