人口減少時代の生存戦略「ブランド×ファンベース」で選ばれ続ける経営へ
第2回【ブランドの核】スペック競争を脱する「3つの視点」の言語化
価格や機能だけで選ばれる時代の限界
前回は、人口減少が進む長野県の企業経営において、単に新規顧客を追い続けるのではなく、既存の顧客やファンとの関係を深めることが重要であると述べました。既存のコアファンを大切にすることは、守りの発想ではありません。そのファンが自社の価値を周囲に伝えてくれることで、結果として自然で持続的な新規顧客開拓にもつながります。
では、その前提となる「ブランド」とは、どのようにつくればよいのでしょうか。
ブランドというと、ロゴ、デザイン、キャッチコピー、広告などを思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、ブランドの本質は見た目を整えることではありません。自社が顧客に何を約束し、どのような姿勢で事業を続けていくのかを、顧客の心の中に積み重ねていくことです。
人口が増え、市場が拡大していた時代には、価格、機能、品ぞろえ、立地といった「分かりやすいスペック」で競争できました。しかし、人口減少が進む時代には、スペックだけの競争は厳しくなります。価格を下げれば利益が削られ、機能を増やせばコストが増え、広告を増やせば販促費がかさみます。しかも、スペックは競合にまねされやすいものです。
これから大切になるのは、「なぜこの会社を選ぶのか」「なぜこの商品を買い続けるのか」「なぜこの人から買いたいのか」という、顧客の心の中にある理由です。その理由をつくるものがブランドです。そして、そのブランドの核を考える上で、私は3つの視点が重要だと考えています。
それが、ブランド・アイデンティティ、ブランド・パーソナリティ、ブランド・ライフヴィジョンです。
第一の視点:ブランド・アイデンティティ--自社が絶対に守る「約束」を決める
ブランド・アイデンティティとは、自社が何者であるかを示す核となる考え方です。もう少し分かりやすく言えば、「流行が変わっても、景気が変動しても、これだけは絶対に守る」という顧客への約束です。
食品メーカーであれば、「地元の素材を使い、余計な添加物に頼らない」という約束かもしれません。旅館であれば、「派手な設備よりも、静かに心身を休められる時間を提供する」という約束かもしれません。工務店であれば、「見えない部分の施工品質にこそ手を抜かない」という約束かもしれません。
ここで大切なのは、何でも盛り込まないことです。良さそうな言葉を並べすぎると、かえって何も伝わらなくなります。ブランド・アイデンティティとは、選ぶことです。自社が何を大切にし、何を捨てるのかを明確にすることです。
私が関わってきたインデックスファンドの世界でも、これは非常に重要でした。eMAXISSlim シリーズは、低コストで、分かりやすく、長く持ち続けやすい投資信託を目指してきました。派手なテーマや短期的な流行を追うのではなく、長期の資産形成に必要な基本的な価値を、できるだけ低いコストで提供する。
その姿勢を一貫して打ち出したことが、顧客からの信頼につながったと感じています。
金融商品と地域の企業経営は同じではありません。しかし、「何を約束するのかを明確にし、その約束を守り続ける」という点では共通しています。約束を掲げ、それを日々の事業活動の中で守り続けることで、少しずつ顧客の記憶に残っていくものです。
自社が顧客に何を約束しているのか。価格が少し高くても守りたい価値は何か。10年後も変えたくない姿勢は何か。こうしたことを経営者自身の言葉で整理していくことが、ブランドづくりの第一歩になります。
第二の視点:ブランド・パーソナリティ--企業の「人間味」を見えるようにする
第二の視点は、ブランド・パーソナリティです。これは、ブランドを1人の人間に例えたとき、どのような性格や雰囲気を持っているかということです。
同じ商品やサービスであっても、「誠実で落ち着いた印象」の会社もあれば、「明るく親しみやすい印象」の会社もあります。「専門性が高く頼れる会社」もあれば、「手づくり感があって温かい会社」もあります。顧客は、商品そのものだけでなく、その会社から感じる雰囲気や人柄も含めて、選ぶかどうかを判断しています。
これは、地域の中小企業にとって大きな強みになります。大企業は広告や知名度では有利ですが、経営者や作り手の顔が見えにくいこともあります。一方、地域の企業や小規模事業者は、「どんな人が、どんな思いで作っているのか」を伝えやすい。経営者自身の言葉、職人の表情、従業員の対応、地域との関わり方が、そのままブランドの人格になります。
ワイナリーであれば、単に品種や醸造方法を説明するだけではなく、「なぜこの土地でワインを造るのか」「どんな気候や土壌と向き合っているのか」を語ることができます。味の評価だけでなく、その背景にある人の思いや土地の物語が伝わることで、顧客はそのワインをより深く記憶します。
旅館や飲食店、小売店、製造業でも同じです。顧客が知りたいのは、スペックだけではありません。誰が、なぜ、どのような思いで、その商品やサービスを届けているのか。そこに共感が生まれると、顧客は単なる購入者ではなく、応援者に変わっていきます。
ただし、無理に「面白い会社」「個性的な会社」を演じる必要はありません。大切なのは、自社らしさを正直に表すことです。落ち着いた会社は落ち着いたままでよい。真面目な会社は真面目なままでよい。職人気質の会社は、その誠実さや細部へのこだわりを伝えればよいのです。
言葉遣い、写真の選び方、接客の雰囲気、ホームページの文章、SNS での発信。こうした小さな接点の積み重ねが、ブランドの人間味を形づくっていきます。
第三の視点:ブランド・ライフヴィジョン--顧客の人生のどこに寄り添うのか
第三の視点は、ブランド・ライフヴィジョンです。私なりに言えば、「自社の商品やサービスが、顧客の人生や暮らしのどの場面に寄り添いたいのか」を考えることです。
多くの企業は、自社の商品やサービスを起点に考えます。何を売るのか。いくらで売るのか。どのように売るのか。もちろん、それは重要です。しかし、ブランドを長く育てるためには、顧客の人生を起点に考える必要があります。
住宅会社であれば、売っているのは家そのものかもしれません。しかし、顧客にとっては、家族の時間、子どもの成長、老後の安心、地域とのつながりを支える場所です。飲食店であれば、売っているのは料理かもしれません。しかし、顧客にとっては、大切な人との会話、仕事帰りの安らぎ、旅行先での記憶を作る場でもあります。酒蔵やワイナリーであれば、売っているのは酒やワインかもしれません。しかし、顧客にとっては、季節の食卓、贈り物、旅の思い出、人生の節目に寄り添う存在になり得ます。
この視点を持つと、商品やサービスの見え方が変わります。単に「何を作っているか」ではなく、「顧客のどんな時間を豊かにしているか」を考えるようになるからです。そこに、スペック競争を超えるヒントがあります。
インデックスファンドも同じでした。投資信託を金融商品として見れば、信託報酬、騰落率、純資産総額、ベンチマークといった数字の世界になります。しかし、生活者にとって本当に大切なのは、その商品が自分の人生にどう役立つかです。
将来への不安を少し和らげ、世界経済の成長を自分の資産形成に取り込む。そうした実感が生まれたとき、投資信託は単なる金融商品ではなく、暮らしを支える道具になります。
オルカンが多くの投資家に支持された背景にも、数字で比較される商品から、「自分たちの資産形成を支えるもの」へと受け止められていった変化がありました。「俺たちのオルカン」と呼びたくなるような1人称の感情移入が、長く持ち続ける力につながったのだと思います。
地域企業にとっても、ブランド・ライフヴィジョンは重要です。顧客は、自社の商品を買った後、どのような時間を過ごすのか。どのような気持ちになるのか。10年後、どのような関係でありたいのか。そこまで想像することで、単発の販売ではなく、長期の関係づくりが見えてきます。

(注)筆者作成
3つの視点を日々の経営に落とし込む
ブランド・アイデンティティ、ブランド・パーソナリティ、ブランド・ライフヴィジョン。この3つは、別々のものではありません。
アイデンティティは、自社が守る約束です。
パーソナリティは、その約束をどのような雰囲気や人柄で伝えるかです。
ライフヴィジョンは、その約束が顧客の人生や暮らしのどこに寄り添うのかです。
この3つがそろうと、ブランドには一貫性が生まれます。逆に言えば、どれかが欠けると、顧客には伝わりにくくなります。立派な理念を掲げていても、接客や発信の雰囲気がばらばらであれば、信頼は積み上がりません。親しみやすい発信をしていても、何を約束しているのかが曖昧であれば、価格やキャンペー
ンに左右されやすくなります。
ブランドづくりは、大きな広告予算がなければできないものではありません。むしろ、経営者自身が自社の核を言葉にし、それを従業員と共有し、顧客との接点で少しずつ表現していくことから始まります。店頭の一言、商品説明の文章、ホームページの写真、SNSでの投稿、納品時の対応、アフターフォロー。その1つ1つが、ブランドをつくります。
特に地域企業の場合、ブランドの核は外から無理につくるものではなく、これまでの商売の中で自然に積み上がってきたものの中にあります。長く付き合ってくれている顧客が、なぜ自社を選び続けてくれているのか。従業員が大切にしてきた振る舞いは何か。地域の中で、どのような存在として受け止められて
きたのか。そこに目を向けることで、自社らしいブランドの輪郭は少しずつ見えてきます。
人口減少時代には、「何となく選ばれる」のではなく、「理由があって選ばれる」存在になることが重要です。その理由は、価格や機能だけではありません。自社が何を約束し、どのような人柄で伝え、顧客の人生のどこに寄り添うのか。そこを言語化できた企業は、縮小する市場の中でも、ファンとの関係を深め、選ばれ続ける可能性を高めることができます。
ブランドとは、売るための飾りではありません。顧客との約束であり、経営の軸であり、未来に向けた信頼の積み重ねです。スペック競争から抜け出す第一歩は、自社の中にすでにある価値を見つめ直し、それを分かりやすい言葉にすることなのです。
(出典)一般財団法人長野経済研究所「経済月報2026年9月号」
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